解決志向チーム会議とは
学校で,子どもたちやクラスでの不登校やいじめなどの困りごとが起こると,先生たちで会議を開き対応策を話し合います。困ってることが起こっているのですから,できるだけ早く対応策を見つけて助けていくのが望ましいですが,長時間行っても結論が決まらない会議や,原因追求型の会議になることがあります。このような学校での状況を打開し,短時間で支援策が明確になることを目指して開発されたのが,「解決志向チーム会議」です。これは,山形大学大学院教育実践研究科教授であった佐藤節子氏が,2009年に講義「カウンセリング」と「ファシリテーション」の担当をきっかけに開発した学校現場での効果的なケース会議の手法です。2012年に論文で発表され,2021年に著書としてまとめられました。
この著書の中で佐藤氏は,これまでの会議に対して多くの先生たちが抱いていたネガティブな思いを「何も決まらないグチグチ会議」と呼んで,次のように振り返っています。
- 「時間がない」:教科指導や部活,他の会議に追われ,教育相談にかける時間などない
- 「様子を見ましょう」という逃げ道に行ってしまい,問題が先送りになりがち
- 「原因探し・犯人探し」の穴から抜け出せない:さらに問題が出てきて,何を話し合ったらいいかわからない
- 「ほかの人が変わることを期待する」:あの人が変わらないと…といった,他者の変化を期待する話が多くなりがち
そこで開発されたのが「解決志向チーム会議」です。
この方法を用いれば,わずか30分で,みんなで一緒に話し合って,次の一手を決定できるようになります。佐藤氏のいう「チームで進めるワクワク会議」です。会議では次のようなシーンが現れるようになります。
- メンバー同士で話を聞き,ねぎらいあう
- 開かれた関係で,一緒に考える
- ファシリテーターが会議の進行を管理し,時間・ゴール・ルールを大事にする
- 変化はリソース(有効な資源)の一つとなり,うまく行く方法を見逃さないようにする
- ほんの30分という短時間だからこそ,集中して充実した会議ができるようになる
解決志向チーム会議の基本となる考え方
解決志向チーム会議の背景には,カウンセリングの「解決志向アプローチ」と「ファシリテーション」という二つの考え方があります。解決志向アプローチ
一つ目の「解決志向アプローチ」は,- うまく行っていることは変えるな
- 一度でもうまく行っていることは続けよう
- うまくいっていないのであれば,違うことをしよう
ファシリテーション
二つ目の「ファシリテーション」は,集団による知的相互作用を促進する働きのこと(堀, 2004)です。チーム会議では,ファシリテーターが力を発揮することにより,会議が円滑に進むようになります。ファシリテーターの役割は次の通りです。- 会議の進行役を務め,最終的に意見をまとめてみなで分かち合えるようにすること
- 参加者を集め,場を開き,時間や進行を管理すること
- 質問や意見が途切れた場合は,観点を与え,話し合いがしやすいようにすること
解決志向チーム会議の進め方
解決志向チーム会議を行う前の場の準備
会議に必要なもの
- ホワイトボード
- ホワイトボード用のペン(黒・青・赤)
- 人数分の椅子
- カメラ,時計(スマホでもOK)
- 事例提供者の場合は参考になる資料(絵や宿題,データ)
進め方:9つのステップ
場の準備ができたら,いよいよ会議を始めます。会議は,次の9つのステップで,それぞれの時間の目安に従って進められます。
表1 SFTMMの9つのステップとタイムスケジュール
佐藤(2021)54-67頁に基づき著者が作成
佐藤(2021)54-67頁に基づき著者が作成
進め方をより詳しく知りたい方は,佐藤節子(2021)『解決志向のチーム会議 未来につながる教育相談』図書文化. をご覧ください。
参考図書はこちらから
解決志向チーム会議の進め方をライブで確認したい場合は,このウエブサイトに掲載されている動画を参考にしてください。
動画はこちらのページから
ホワイトボード上のレイアウト
佐藤氏の著書にある事例を話し合って,ホワイトボードに記載した一例です。それぞれのステップの内容を記載する位置はおよそ統一されていますが,話し合う事例によって,表記の場所や分量が少し異なることがあります。関心のある方は,このウエブサイトに掲載されている動画の事例と見比べてみてください。図1 SFTMMにおけるホワイトボード上の推奨レイアウト
佐藤(2021)28-29頁に基づき著者が作成
解決志向チーム会議
開発者の想い
解決志向チーム会議を通じて,短時間で解決策が決まり,速やかに支援に着手できることで,先生も子どもも元気になっていくことが期待されます。最後に,解決志向チーム会議では,事例報告者自身が実際に行う支援策を決定します。支援策として「何を行うか」は大事です。それだけでなく,事例提供をする先生がみんなの助けを借りて「自己決定する」ということに,先生たちの自立を願う開発者の想いが込められているように思われます。
参考文献
- Berg, I.K. (1994). Family Based Services: A Solution Focused Approach. New York: WW. Norton. (バーグ, I. K., 磯貝希久子(監訳)(1997). 家族支援ハンドブック 金剛出版)
- 堀公俊(2004). 『ファシリテーション入門』,日本経済新聞出版.*
- 佐藤節子(2012). 「学校における効果的なケース会議の在り方について―「ホワイトボード教育相談」の試み―,山形大学大学院教育実践研究科年報,(3),pp. 23-30.
- 佐藤節子編著(2021). 『ホワイトボードでできる解決志向のチーム会議 未来につながる教育相談』,図書文化.
*この本には新版がありますが,本プロジェクトでは佐藤(2021)が依拠しているものを記載しています。
佐藤先生よりコメント
「○○できるようになるにはどうしたらいいか」の目標設定ができれば,
よりよい話し合いが進められます!解決志向で話し合いを進めるため,設定する目標(ゴール)は「離席しないようにするにはどうしたらいいか」(ネガティブ表現)よりも,「○○できるようになるにはどうしたらいいか」(ポジティブ表現)が望ましいです。ネガティブ表現からスタートしてしまったら,ステップ5「目標の確認」でポジティブ表現に置き換えられるようになるといいですね。